おなかブログ
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あんどう消化器内科IBDクリニックのブログです。
当院は消化器内科専門のクリニックですが、「喉の詰まり感」を主訴に受診される方が比較的多く受診されます。
「喉に何か引っかかっている感じがする」「飲み込んでも何かが残っている気がする」「喉がイガイガ、モヤモヤする」――表現は人それぞれですが、皆さん共通して「なんだか気持ちが悪い」「もしかして悪い病気では…」と不安を抱えて来られます。
多くの方は、まず耳鼻咽喉科を受診されています。そこで喉を診てもらい、「特に異常はありませんね」と言われた。でも症状は続いている。そこで「もしかして食道や胃のほうでは?」と消化器内科にたどり着かれる…という流れが多い印象です。
今回は、こうした「喉の違和感」の代表的な疾患である「咽喉頭異常感症」についての話しです。
咽喉頭異常感症とは、喉に詰まり感や異物感などの不快な感覚があるのに、検査をしてもその原因となる異常が見つからない状態のことをいいます。英語では、症状そのままの「グロブス(globus:塊、球)」と呼ばれます。
実はこの病気、とても歴史が古いのです。
古代ギリシャの時代から、喉に塊がつかえるような感覚については記録が残っているといわれています。当時は「子宮(ギリシャ語で hystera)が体の中をさまよい、喉元まで上がってくることで起こる」と考えられ、主に女性の病気とされていました。ここから「ヒステリー球(globus hystericus)」という名前が生まれました。
(ちなみに、感情の制御が出来なくなるという意味の“ヒステリー”もこの「hystera」からきています。古代ではヒステリーは女性特有のものと考えられていたんですね…😅)
一方、東洋でも古くから知られていました。後漢末期の医学書『金匱要略(きんきようりゃく)』には、「婦人、咽中に炙臠(しゃれん)あるが如し」という記載があります。「炙臠」とは炙った肉の切れ端のこと。喉に焼いた肉片が貼りついたような感じ、というわけです。これが「咽中炙臠(いんちゅうしゃれん)」です。
また、喉に梅の種が引っかかったような感覚から「梅核気(ばいかくき)」とも呼ばれます。どちらも、なんとも言い得て妙な表現ですよね。

上手いたとえですよね
面白いことに、西洋でも東洋でも「女性に多い」「気持ち(こころ)と関係がある」と捉えられていた点は共通しています。実際、現在でも中年の女性に多い傾向があり、ストレスや不安、自律神経の乱れが症状に影響することが知られています。ストレスにさらされやすい現代社会では、決して珍しくない、むしろとてもよくみられる症状なのです。
咽喉頭異常感症は、「検査をしても異常が見つからない」ことが前提の病気です。裏を返せば、似た症状を起こす病気をきちんと除外することが何より大切になります。喉の違和感の原因になりうる主な病気を、場所ごとに整理してみました。
| 部位 | 主な病気 | ポイント |
| 咽頭・喉頭 | 咽頭がん・喉頭がん、慢性咽喉頭炎、後鼻漏(副鼻腔炎など) | 耳鼻咽喉科での喉頭ファイバーが基本。飲酒・喫煙歴のある方は特に注意 |
| 食道 | 逆流性食道炎、好酸球性食道炎、食道がん、食道入口部の異所性胃粘膜、食道裂孔ヘルニア | 胃カメラで評価。消化器内科の守備範囲 |
| 食道の動き | 食道アカラシアなどの食道運動障害 | 「食べ物がつかえる」症状があれば要注意 |
| 頸部 | 甲状腺の病気(甲状腺腫、腫瘍、橋本病など)、頸椎の骨棘 | 首の超音波(エコー)や血液検査で評価 |
| こころ・自律神経 | 不安、うつ、ストレス | 症状を強める要因として重要 |
なかでも消化器内科として特に重要なのが、次のふたつです。
① 逆流性食道炎(胃食道逆流症) 胃酸が食道や喉まで上がってくることで、喉の違和感や咳払い、声がれの原因になります。胸やけがはっきりしない方もいて、「喉の症状だけ」ということも少なくありません。咽喉頭異常感症の原因として最も多いもののひとつと考えられています。
② 食道がん・下咽頭がん 頻度は高くありませんが、絶対に見逃してはいけない病気です。特に、お酒を飲むと顔が赤くなる体質の方、喫煙歴のある方はリスクが高いことが知られています。下咽頭(喉の一番奥、食道の入り口付近)は耳鼻科の喉頭ファイバーでも死角になりやすい場所で、胃カメラのときに意識して観察することが大切です。
鑑別のために行う主な検査は次のとおりです。すべての方に全部の検査が必要なわけではなく、症状や年齢、生活歴に応じて選んでいきます。
当院で行える検査は2の胃カメラだけですが、その際にも可能な限り咽頭・喉頭にも病気が無いかを確認します。3や4の検査が必要と判断した際には近隣の病院に紹介させていただいています。
検査で重大な病気がないことを確認したうえで、次のような治療を組み合わせていきます。
先ほども書きましたが、「悪い病気ではない」と分かることはとても大切です。咽喉頭異常感症は、気にすればするほど喉に意識が向き、ますます違和感を強く感じる…という悪循環に陥りやすい病気です。原因と仕組みを知って、その悪循環を断ち切ることが治療の土台になります。
咽喉頭異常感症と診断した際には、まず最初に行う治療です。胃酸を抑える薬を一定期間(数週間〜2か月程度)試します。胸やけがなくても効果が出る方がいます。
体や心を動かすエネルギーのような存在を「気」と言います(いわゆる”元気”の”気”ですね)。咽喉頭異常感症は、東洋医学的にはのど周辺の気の巡りが停滞した状態と診断されます。半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)は、ストレスなどで乱れた「気」の巡りを整える代表的な処方です。気分の落ち込みや不安感を伴う方には、そのほかの漢方薬を使用することもあります。
ストレスや不安が強く関わっている場合には、抗不安薬や抗うつ薬を少量使うことがあります。また、症状によっては心療内科との連携も考えます。
咽喉頭異常感症は命に関わる病気ではありませんが、ご本人にとってはとてもつらい症状です。すぐにゼロにはならなくても、「気にならない日が増えてきた」という形で、少しずつ良くなっていく方が多い印象です。
以下のような症状は、咽喉頭異常感症ではない別の病気が隠れているサインかもしれません。
古代ギリシャでは「さまよう子宮」、中国では「炙った肉」や「梅の種」…。喉の違和感は、何千年も前から人々を悩ませてきた、いわば人類共通の悩みです。そして、ストレスにさらされ、自律神経が乱れやすい現代では、ますます身近な症状になっています。
「耳鼻科で異常なしと言われたけど、まだ気になる」 「食道や胃のほうも一度診てもらいたい」
そんな方は、どうぞお気軽にご相談ください。しっかりと検査をして、「大丈夫」を一緒に確認するところから始めましょう。