おなかブログ
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日本消化器病学会が2010年に発行した、「患者さんと家族のためのクローン病ガイドブック」では「クローン病とは、小腸・大腸などの消化管に特殊な炎症を起こす原因不明の病気です。10歳代後半から30歳台前半の若いころから始まり、良くなったり悪くなったりしながら、長い年月続きます。この病気を完全に治す治療法はまだありませんが、適切な治療により病気をおさえて、健康な人とほとんどかわらないほどの日常生活を続けることが可能です。」と説明されています。刊行から10年が経過し、いくつかの新しい治療薬が当たり前のように使用されるようになった現在では、「健康な人とほとんどかわらないほどの日常生活」の実現により近づいていると言えます。
クローン病は「慢性的に活動性が持続する」病気
クローン病の特徴として、「10代から30代の若い方に発症する」、「小腸、大腸、肛門などに潰瘍(深い傷)ができる」などが挙げられますが、それ以外に、「免疫の異常により起こった炎症が、慢性的に持続することで、小腸や大腸に障害を与える病気」であると言えます。
上の図はクローン病の方を仮に何も治療を行わなかった場合の経過を表したものです。症状の出現時には程度の差こそあれ腸管の変形が起こり、長い経過で徐々に病状が進行してしまう、というイメージです。腸管の変形は不可逆的であり、少しでも早い段階から治療を開始し、進行を遅らせることで、可能な限り病気がない方と変わらない生活を送れるようにするというのが治療の基本方針となります。
治療の柱は「生物学的製剤」と「栄養療法(食事療法)」
・生物学的製剤
「生物学的製剤」とは、化学的に合成した医薬品ではなく、生物が合成する物質(たんぱく質)を応用して作られた治療薬の総称です。クローン病や潰瘍性大腸炎をはじめとした炎症性疾患の発症には、免疫や炎症に関与する“サイトカイン”と呼ばれる物質が関わっています。生物学的製剤は、主にこの“サイトカイン”にターゲットを絞って治療を行います。クローン病では現在5種類(レミケード、ヒュミラ、ステラーラ、エンタイビオ、スキリージ※)の生物学的製剤が使用可能です。(※2023年3月2日追記)
先に述べたように、クローン病の治療の基本方針は発症の早い段階でしっかり治療を行い、腸管の不可逆的な変形を抑えることにあります。その際、生物学的製剤は非常に有効な治療手段になります。当院では患者さんごとに病気の状態を慎重に検討し、必要な方には積極的に生物学的製剤を使用していきます。
・栄養療法(食事療法)
近年様々な薬剤が登場し、クローン病の治療法は劇的に変化しました。そのため栄養療法はやや下火になっている印象があります。以前はクローン病といえば非常に厳しい食事制限が必要とされました。クローン病の発症には食事に含まれるたんぱく質や脂質が関係していると言われており、これらを制限することは症状の悪化を抑え、病気の進行を遅らせる点において明らかに有効です。また、先に述べた生物学的製剤による治療と適切な栄養療法を併用することで、より高い治療効果が期待できます。
また、栄養療法は唯一ご自身でできる治療でもあります。その時の体調に合わせて食事内容の調整を行い、セルフメンテナンスを行うことで、より長く安定した状態を保つことができます。
しかし、忘れないでいただきたいのは、真の治療目標は、「健康な人とほとんどかわらないほどの日常生活を続ける」であるということです。厳しすぎる食事制限により通常の生活が送れなくなってしまっては本末転倒です。生物学的製剤などの薬物療法と併用して、それぞれの方にあった適度な栄養療法を行ことが大切です。
クローン病の治療は長期に及び、それに合わせて病気の状態も変化していきます。それと同時に、治療手段も次々と進歩し続けています。当クリニックでは、それぞれの患者さんが「健康な人とほとんどかわらないほどの日常生活を続ける」ためにはどうすればいいのか、一緒に考えるお手伝いをさせていただければと考えています。