おなかブログ
BLOG
BLOG
あんどう消化器内科IBDクリニックのブログです
皆さんは「おなかの不調」と聞いてどのような症状が浮かびますか?胸やけ、胃もたれ、腹痛、便秘、下痢など…、人それぞれではないかと思いますが、日々の診療で意外によく耳にするのが、「ガス」に関するお悩みです。「お腹にガスが溜まって苦しい」、「ごろごろと音が鳴って恥ずかしい」、「おならがよく出て困る」など、つらいけど他人には相談しづらい症状が多いようです。実際、「ガスだまり」は多くの方が気にされる症状であり、ネット上にもいろいろな情報が飛び交っていますね(こちらの記事がバランスよくわかりやすくまとめられておりお勧めです⇒「お腹にガスが溜まるのはなぜ?お腹が張る原因や考えられる病気について解説!」(わかもと製薬株式会社HP))。
「ガス」が溜まる原因は実にさまざまであり、複数の要素が重なり合っていることも多く、治療には非常に難渋することが多い症状です(こんなんばっかり・・・)そんな中で、よく使われる薬に「ガスコン®(一般名:ジメチコン)」という薬があります。古くからある薬ですが、今でもよく使われるお薬です。今回はこの「ガスコン®」を取り上げます。
お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、「ガスコン」という名前は「”ガス”を”コントロールする”」ということに由来しています(うん、分かりやすい😆)。一番最初に発売された「ガスコンドロップ内服液」が保険承認されたのが1962年(!)ですから、60年以上の歴史がある息の長い薬です(錠剤は1965年から)。これだけ長い間第一線で処方されているという事は、それだけ有用な薬だから、とも言えますね(分かりやすい名前だから、というのもあるかも🤔?)。
添付文書に記載されているガスコンの効能効果には以下のものが挙げられています。
① 胃腸管内のガスに起因する腹部症状の改善 ② 胃内視鏡検査時における胃内有泡性粘液の除去 ③ 腹部X線検査時における腸内ガスの駆除 |
治療で使用するときは当然①の効果を期待して処方します。どのようにして効果が出るかはこちらのページに詳しいのでご参照ください(役に立つ薬の情報~専門薬学 ホームページ)。要するに、「おなかに溜まった小さなガスの粒ををつぶして大きな泡にして、まとめて外に押し流す薬」、ということになります。
添付文書に記載されている臨床成績は以下の通りです。
〈胃腸管内のガスに起因する腹部症状の改善〉 17.1.1 国内比較臨床試験 腹部膨満感などの胃腸の不定愁訴を有する患者を対象に、ジメチルポリシロキサン錠240mg/日(1回80mgを1日3回)投与群57例とプラセボ投与群58例の二重盲検比較試験を行った。全般改善度を、著明改善、中等度改善、軽度改善、不変、悪化の5段階区分にて評価した結果、中等度改善以上の改善率は投与1週後でジメチルポリシロキサン群46.3%、プラセボ群19.6%、投与2週後でジメチルポリシロキサン群50.0%、プラセボ群33.3%であり、投与1週後における改善率はプラセボ群と比較してジメチルポリシロキサン群が有意に高かった。副作用発現割合はジメチルポリシロキサン群1.8%(1/57例)、プラセボ群3.5%(2/58例)であった。認められた副作用は下痢1例であった。 小口源一郎ほか:臨床と研究.1973;50(9):2778-2789 |
ジメチルポリシロキサンとはガスコンの主成分のことです。古い薬だけあってデータも少々古いのですが、投与2週間である程度改善したと感じられた方が半数という事で、なかなかの結果です。実際、ガスコンを継続されている患者さんに伺うと、「なんとなくごろごろや張りがましになった気がする」という方が一定数いらっしゃいます(症状の原因が必ずしもガス溜まりのみではないのでうまくいかないことももちろんありますが)。
また、「非常に安全性が高い薬である」というのも特徴の一つです。
16.薬物動態 16.2吸収 ラットにジメチルポリシロキサンを500mg/kg経口投与した場合、血中には検出されなかった。 16.3分布 ラットにジメチルポリシロキサンを500mg/kg経口投与した場合、投与1~3時間後に肝臓中に痕跡量検出されたのみで血中及び他の臓器中には検出されなかった。 16.4 代謝 ラット糞中の代謝物を検討すると、糞中に含まれるのはジメチルポリシロキサンそのものであり、未変化のままで排泄されている。 16.5 排泄 ラットにジメチルポリシロキサンを500mg/kg経口投与した場合、ジメチルポリシロキサンの胃・小腸の通過はすみやかであり、投与後6時間以内に約50%、12~24時間で約90%が糞中に排泄された。尿中からは検出されず、ほとんどすべて糞中へ排泄される。 有坂常男:基礎と臨床.1975;9(3):447-451 |
内服したガスコンは血液中や、尿中、他の臓器から検出されることなく、ほとんどすべてが便として排出されるということです。そのため、お子さんやご高齢の方だけでなく、妊娠中の方や授乳中の方にも安心して飲んでいただける薬です(やはりデータとしては古いんですけど💦)。
もう一つ特筆しておきたい特徴があります。それは、「薬価が安い」ということです。ガスコン錠40㎎1錠の薬価は、2024年7月現在で5.7円となっています(ちなみに倍の80㎎は5.9円・・・お得?)。1日3錠で4週間飲んだとして5.7円×3回×28日=478.8円、健康保険で3割の負担だとしたら、144円ということになります。
実はこの薬価、発売された60年前から変わっていないんです😲!1965年当時の5.7円を現在の価値に換算すると21.4円になるということですから、その安さが際立ちますね(もちろん、薬の値段は国が決めているので普通の商品と比較しても意味がないんですが😅)。最近は新しい有効な薬が増えてきています。それ自体は喜ばしいことですが、複雑な病態に対するためには薬自体が複雑なものになってしまいがちです。そのため、研究開発や治験には莫大な費用がかかり、必然的に薬の値段も高くなる傾向があります。比較的長期間飲む事が多くなる治療薬の場合、「値段が安い」というのは非常に重要なポイントです。
「ガス」に関する悩みは、御本人にとっては深刻ですが、なかなか理解してもらえない症状でもあります。また、治療する側からしてもかなり難渋する症状でもあります。そんな時、「ガスコン錠」の使用を検討してみるのも有り・・・、かもしれません(安いし🤭)。