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涙の理由 ~バイオ投与に思うこと~

 

あんどう消化器内科IBDクリニックのブログです。

 

 現在のIBD(潰瘍性大腸炎とクローン病)治療の中心は、間違いなく「生物学的製剤」です。2002年5月にクローン病への使用が認められた「レミケード®」が最初の薬剤ですが、この「レミケード®」の登場は、難病であるIBDの治療にとって非常に画期的な出来事でした。それまでは悪くなる一方の病気に対して、厳しい食事制限や長期の入院治療などでなんとか進行を遅らせる、いわば守り中心(しかも滅多打ち・・・ 😥 )の治療しかできなかった状況から、初めて積極的に治すことができる、「攻めの治療」への転換点になったからです。2002年といえば私自身が医者になった年でもあり、まさしく生物学的製剤の進歩とともに歩んできたという実感があります。

 

 

       こんな感じです

 

 

 今回は、初めてレミケードを使用したときの話をさせてもらいます。
(事実ですが・・・多少脚色はしています 🙄 )

 


 

 医師になって4年目の2005年から一人で患者さんを担当するようになったのですが、その年に20代の女性のクローン病の患者さん(仮にAさんとします)が入院してきました。Aさんはその時点で病気が判明してから10年以上がたっており、人生の大半を病気と向き合ってこられていた方でした。外来で診られていたのはベテランの先生で、体調がすぐれないため入院となり、その時初めて担当させてもらいました。

 

 当時のクローン病の一般的な治療法は、完全絶食にして腸管の炎症を鎮静化させ、次第に炎症を悪化させにくい栄養剤や重湯程度の食事に切り替えていくというものでした。いくつか検査はあるものの、基本的にはひたすら点滴をするだけという、ある意味非常に「地味な病気」でした。

 

 初めてじっくりと担当させてもらったクローン病患者さんでしたが、年齢が近いこともあり話しやすく、なにより一見重篤な感じもなかったため、診察と言っても友人と雑談をするような感覚で毎日接していました(当時は重篤な他の疾患の患者さんも一緒に担当しており、無意識に「それほど大変じゃない病気」と思っていたのかもしれません 😐 )。ただ、絶食をすれば炎症は落ち着くものの、経口摂取を始めるとすぐに悪化を繰り返し、入院期間も長期になってきました。

 

 そんな折、先輩の先生から、「レミケードっていうよく効く薬があるから使ってみたら?」と勧められたのです。恥ずかしながら当時まったく知識がなかったのですが、調べてみると非常に画期的な薬であることが分かりました。「これはぜひ使わなければ・・・」と、大急ぎでAさんの病室に行き、レミケードを使うことを勧めました。何か月も良くならなかった病気が、薬を投与すればすぐに良くなるかもしれない、当然喜んで治療を受けてくれると思ったのですが・・・、Aさんはなぜかあまり浮かない顔です。すぐに投与をしなければいけない状況でもなく、その時はとりあえず今までの治療を続けることになりました。

 

 その後もやはり、絶食にすると落ち着くものの食事を始めると悪くなるの繰り返し・・・

 

 (このままでは永遠に退院できないな・・・)

 

 その夜、改めてAさんを説明室に呼びました。点滴棒を引きながら入ってこられたAさんに、いかにレミケードという薬が画期的な薬でよく効くか(まぁ、使ったことはなかったんですけど 😳 )、今こそ投与が必要なタイミングであるということを繰り返し説明しました。

 

 黙って話を聞いていたAさんは、しばらく沈黙した後に独り言のようにこう言いました。

 

 「分かりました、仕方がないですよね・・・」

 

 やっと分かってもらえた、と内心ほっとしたのですが・・・。その時、Aさんの瞳から大粒の涙がこぼれました。いつもニコニコされているAさんの涙に内心動揺したのを覚えています。なぜ泣いているのか、その時はとっさに理解することが出来なかったからです。

 

 翌日からレミケードの投与を開始しました。効果は明らかであり、それまで食事をとるとすぐに悪化していたのが嘘のように順調に回復し、食事をとっても問題ない状態で無事に退院されました。

 

 

 その当時、レミケードはクローン病の治療を根本的に変えるかもしれない薬として非常に注目を集めていました。それは、20年以上たった現在でもクローン病治療の中心に位置していることからも伺えます。治療者側からすると、「是非使いたい薬」であった訳です。ただ、実際に投与を受けるのは患者さんです。当時はクローン病に使用される唯一の生物学的製剤であり、「本当に悪くなった時の最終手段」ととらえられていたと思います。その時点で10年以上、食事制限や成分栄養剤で治療し、色々日常生活にも支障をきたしながら病気と付き合ってきたAさんですが、ついにレミケードを使わなければいけない状況に来てしまったという絶望感や不安感、今までの苦労が無駄になってしまったというくやしさなどの感情が合わさって涙が溢れてしまったのではないか・・・、今ではそう思っています(本当の理由は今でも分かりませんが)。

 

 現在のIBD診療においては、実に様々な生物学的製剤やそれに類する薬剤が使用されています。また、次々と新薬の発売も予定されており、生物学的製剤の使用は決して「最後の手段」ではなくなっています。当院でも通常の治療の一環として、ほぼすべての薬剤を日常的に使用しており、使用することのハードルが低くなってしまっていることは事実です。有効な治療の選択肢が増えたことで、患者さんが普通の日常を送ることが出来るようになることは非常に喜ばしいことです。

 

 ただ、その治療に対するとらえ方は各患者さんで様々だと思います。患者さんに初めて生物学的製剤を使用するとき、「この治療をすることが、本当にこの人のためになるのか?」こんなことを考えながら、日々の診療にあたっています。

 

 

 

 そんな時、今でもあの時に見た涙を思い出しています。

 

 

 

 

 


 

「涙」に関して、大好きな曲です。

 

木蘭の涙 : スターダスト☆レビュー

 

 1993年に発売されたスターダスト☆レビューの名曲です。大切な人を亡くしたやり場のない悲しみを、根本要さんの心震える歌声で、切々と歌ったバラードです。名曲であるため、非常にたくさんのカバーバージョンがありますが、やはりオリジナルのこの歌声が一番心に響きます。

 

 

アコースティックバージョンです・・・泣けます。

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、Aさんは今でもお元気ですよ。ご安心ください 😊

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