おなかブログ
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あんどう消化器内科IBDクリニックのブログです。
少し前になりますが、AIに医師国家試験を解かせたところ合格ラインを超えたというニュースが話題になっていました(最新版AI「GPT―4」、日本の医師国家試験で「合格」…安楽死などでは不適切解答)。多くのメディアが驚きをもって伝えていましたが、個人的には、「まあ、当たり前だよな」というのが素直な感想です。医師国家試験は当然まだ臨床経験のない方たちが受けるわけで、問われるのはあくまで知識です。web上の膨大な情報を扱えるAIが、それを駆使して合格点をとるのは不思議でも何でもないですよね(ある意味ネットで検索しながらテスト受けているようなもんでは😅?)
ただ、今回の検証ではAIに特別医学に特化した教育(?)を施していたわけではないので、それで合格点をとれたというのはすごいことです(ノー勉で国試合格って…😵💫)。ごく近い将来、医療現場にAIが入ってくることは避けられないことだと思います。「ヒトがやっているからこその良さ」を、今後ますます磨いていかなければいけないと思う今日この頃です。
話はがらっと変わって、今回は便秘のお話です。薬局ではありとあらゆる便秘薬が売られています。本屋さんでも「これで便秘が解消!!」みたいな本がたくさん並んでいますし、健康をあつかう番組でも便秘は鉄板のネタですよね。それだけ多くの方が便秘で困られているわけで、当院にも便通で困られている方が多く来られます。
今回のブログは、「こうすれば便秘が解消する!」というようなためになる内容ではなく、「なぜ便秘の治療は難しいのかという理由についてです(単なるグチ、あるいは言い訳)。読んでも特に便秘が解消するわけではありませんので、予めご了承ください😆。
そもそもどういう状態を便秘というのでしょうか。2017年に発刊された「慢性便秘症診療ガイドライン」では、「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。ふわっとした表現ですが、これこそ便秘治療の難しさを表していると言えます。つまり、「何日間出なかったら便秘」という訳でもなく、「毎日出ているから便秘ではない」という訳でもないのです。結局、「排便に困っていたら全部便秘」と思っていただいてよいと思います(正確には違います)。
近年、新たな作用機序をもつ便秘薬が増えてきており、便秘治療の幅は広がっています。一応、それらしく便秘治療薬の一覧なんかを載せておきます。
分類 | 一般名 | 商品名 | 作用機序 |
---|---|---|---|
塩類 下剤 |
酸化マグネシウム | 酸化マグネシウム マグミット |
腸内容物の水分を増やし、膨張した腸内容物が腸を刺激 |
糖類 下剤 |
ラクツロース | ラグノスNFゼリー | 大腸の腸内細菌で分解され乳酸などを発生し、蠕動運動を亢進 浸透圧を高め腸管内の水分を増やす |
刺激性下剤 | センナ | アローゼン センナ末 アジャストA ヨーデルS |
大腸の神経叢を直接刺激する |
センノシド | プルゼニド ソルダナ センノサイド |
大腸の神経叢を直接刺激 | |
ダイオウ | ダイオウ末 | 大腸の神経叢を直接刺激 | |
ダイオウ配合 | セチロ配合錠 | ダイオウ+止瀉作用,鎮痙作用,抗菌作用など | |
ピコスルファートNa水和物 | ラキソベロン シンラック |
大腸粘膜の刺激・水分吸収阻害 | |
ビサコジル | テレミンソフト坐薬 | 結腸・直腸粘膜の副交感神経末端に作用 結腸腔内水分吸収抑制作用もあり | |
炭酸水素ナトリウム 無水リン酸二水素ナトリウム |
新レシカルボン坐剤 | 炭酸ガスを発生し、直腸粘膜を刺激・直腸拡張・蠕動亢進 | |
その他 |
ルビプロストン | アミティーザ | 小腸上皮のクロライドチャネルを活性化し、小腸での水分分泌促進 |
エロビキシバット水和物 | グーフィス |
回腸末端部の胆汁酸トランスポーターを阻害し胆汁酸の再吸収を抑制することで大腸管腔内に胆汁酸が増加し、水分分泌増加&消化管運動促進 |
|
マクロゴール製剤 | モビコール | 体内に吸収されず、便の水分割合が増加し便が軟化・便容積の増大することで腸が刺激され蠕動運動が活発になる |
これ以外に漢方薬もよく使用しますが、今回は割愛します。どの薬剤も有効であり、さまざまな作用機序により排便を促します。これらの薬を使って便秘を解消します・・・と言えたらよいのですが、これがなかなかうまくいきません。
なぜ便秘の治療は難しいのか、実際に治療にあたっていて感じるのは以下の点です。
大腸は右下腹部の盲腸から始まり、ぐるっと一周して肛門につながる直腸まで、約1.5m程度の管状の臓器です。これがただの輪っかだったら話は簡単なのですが、実際は垂れ下がっていたり(下垂腸)、ねじれていたり(ねじれ腸)、骨盤内に落ち込んでいたり(落下腸)など、色々な形をしています。もちろん一つとして同じ形はありません。そこに体重の変化、加齢による筋肉量の低下、出産や手術などの影響が加わり、もうなんだかよく分からない状況になります。
巷にはありとあらゆる便秘に効くという商品があふれています。薬局で売っている薬はもちろんのこと、便秘によいお茶だったり、便通が良くなるサプリメントだったり・・・。よく、「薬を飲んでいない元々の状態はどうでしたか?」と伺うのですが、「ずっと飲んでいるからもともとどうだったか覚えていません」という方も多くいらっしゃいます。その状態で一番合う便秘薬はどれか、、、なかなか難問です😱
薬を使えば、ほとんどの方はとりあえず排便は得られます。しかし、先ほど述べた通り、「便が出ていれば便秘ではない」というわけではありません。あくまで、「スッキリ出ておなかも苦しくない」状況になるのが治療の目標です。ある意味、患者さん各個人の主観に任されるところがあり、これが正解!というのがあるわけではありません・・・ムズッ。
排便状況はその方の食生活や生活習慣、睡眠の質、運動習慣、他に飲んでいる薬の影響などで大きく変わります(ついでに言えば、その方の性格にもよります)。これらの改善は当然有効ですが、もちろん即効性があるものではありません。これらに根気よく介入していくのは・・・なかなかに骨が折れる作業です。
排便に困っていなければ便秘ではないとは言え、さすがに1週間以上でないのは便秘と言って良いと思います。腸内環境も悪くなり、免疫力の低下や肌荒れ、糖尿病や高血圧の悪化などにもつながるので、できれば改善したい状況です。ただ、子供のころから便秘が強い方は、1~2週間便が出なくても全然平気という方が結構いらっしゃいます。当然、そのような方の便秘を治療しようとしてもなかなか改善が得られず、治療のモチベーションを保つのはなかなかむつかしい問題になります。
このように、便秘の治療はまったく一筋縄には行きません(ある意味IBDの治療より難しいです😩)。難しいなりに、これらのことを考慮しながら、試行錯誤しながら治療をしているというのが現状です。
便通でお困りの方がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。
・・・説得力無いですか😳?