おなかブログ
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あんどう消化器内科IBDクリニックのブログです
新年度が始まりましたね。毎日電車通勤をしているのですが、今まで見かけなかった方々や、真新しいスーツに身を包んだ若い方々などを見ると、なぜかふわふわした落ち着かない気分になりますよね(僕だけですか?)。うちのクリニックはこれと言って新しいこともないのですが 😥 、気持ちだけは新たに頑張っていきたいと思います。
『バイオマーカー』という言葉をご存知でしょうか?バイオマーカーとは、「ある疾患の有無、病状の変化や治療の効果の指標となる項目・生体内の物質」と説明されています(TORAYホームページより)。改めて考えてみると、病気の状態が「良い」のか「悪い」のかを判断することは、意外と難しいことに気づかされます。体調が良いからと言って必ずしも病気が無いわけでもなく、逆に、体調が悪くて病院で色々検査を受けても何も異常がないということもよく経験されます。そんな時、「今の病状はこれぐらいだ」と、客観的に数値等で表すことができれば、本人だけでなく、治療者も含めた周りの人も同じように理解することができ便利ですよね。身体の状態を客観的に数字で表せればなんでもいいわけで、古くは「脈拍」、「体温」、「血圧」なども、身体の状態を表す立派な『バイオマーカー』と言えます(ふつうは誰も言わないですけど)。人間ドックの検査項目でよく見られる、がんの診断補助や治療効果判定に使われる「腫瘍マーカー」などは、比較的なじみのあるバイオマーカーではないかと思います。
潰瘍性大腸炎は、「大腸の粘膜にびらんや潰瘍が生じることで、下痢や下血、腹痛などを起こす原因不明の慢性炎症性疾患」と定義されます。治療の目標は、症状の改善はもちろんのこと、大腸カメラをしても粘膜がきれいに治っている、「完全寛解」を目指すことです。症状が落ち着いていても、粘膜の炎症が残っている状態が続くことは容易に症状の悪化(再燃と言います)を招いたり、将来的ながんの発生リスクが高まったりするなど、決して望ましい状況ではありません。そのため、病気と正しく付き合うためには、その時々の大腸粘膜の状態をしっかり評価することが重要となります。
とは言え、そんなにしょっちゅう大腸カメラなんてやってられないですよね?そのため、近年では大腸粘膜の状態を反映する『バイオマーカー』がいくつも開発されており、臨床の現場で活用されています。
潰瘍性大腸炎で使用されるバイオマーカー
バイオマーカー | 試料 | 長所 | 短所 |
CRP | 血液 | 採血のみで簡便
エビデンスは豊富 繰り返し可能 |
感度・特異度が低い |
便潜血反応 | 便 | 侵襲がない
低コスト 繰り返し可能 |
便の採取と持参が必要
エビデンスが少ない 特異度が低い |
カルプロテクチン | 便 | 侵襲がない
エビデンスが豊富 |
急性期に誤差が大きい
便の採取と持参が必要 |
LRG | 血液 | 採血のみで簡便 | エビデンスが少ない |
PGE-MUM | 尿 | 採尿のみで簡便
侵襲がない |
エビデンスが少ない 午前尿である必要がある |
この度、新たなバイオマーカーである「PGE-MUM(”ぴーじーまむ”と読みます)」が臨床の場で使用できるようになりました(個人的には密かに「ピグモン」って読んでます…かなりどうでもいいですが)。治療者側としては従来のバイオマーカーでは判断しづらかった別の炎症の経路を反映しており、病態把握、治療選択の判断材料としての使用が期待されますが、患者さんにとっては、「尿で調べられる」というのが最大のメリットではないでしょうか。病院に来ている間にタイミングよく便が出て、病院のトイレで採取⇒提出・・・というのはなかなか難しいですよね?単純に検査のしやすさだけで判断するものではありませんが、気軽に病気の状態を知ることができる検査として有効に活用していきたいと考えています。
潰瘍性大腸炎の状態評価に有用な『バイオマーカー』ですが、検査のスタンダードはあくまでも大腸カメラですし、大腸カメラの代用になるものでもありません。また、主治医の先生によってもバイオマーカーに対する考えや活用法は当然違います。ですが、正しく使用すれば、非常に有用であることは間違いありません。よりよい”IBDライフ”を送るための手段の一つとして、ぜひ覚えておいておいて下さい 😀
・・・春から”しも”の話で失礼しました 😥 (笑)