おなかブログ
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あんどう消化器内科IBDクリニックのブログです。
最近、ご自分でIBS(過敏性腸症候群のことですね)ではと思われたり、過去にIBSと診断されたけれども調子がよくないという方に多く受診していただいています。「先生のブログを見て来ました」とおっしゃられる方が多く大変うれしく思っています。半面、多くの方がIBS症状で困られているにも関わらず、適切な治療が受けられていないのだなと、改めて感じています。今後もそれぞれの方の病状にあった治療を心がけていかなければと思っています…。
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が、皆さんお忘れかもしれませんが、うちは「IBDクリニック」と名乗っているんです😬!!IBD(炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎やクローン病のことです)に関してはあまりブログを見て来ましたという方がいらっしゃらないんですよね…😅。改めて考えると、確かに最近はあまりIBDの記事はアップしてなかった気が…。道理で…
と、そんなことを考えていた先日、大阪と兵庫の開業医の先生を対象に、『クリニックでIBDを”見る”ということ』というタイトルでWebセミナーをさせていただきましたので、その内容をまとめてお伝えします(ちょうどいいネタがあってよかったよかった😆😆)。
・なぜ「見る」なのか
通常病気をみる時には「診る」という漢字を使いますよね。ですが、今回はあえて「見る」という漢字を使ってみました。「みる」という漢字にはいろいろあります(見る、観る、視る、診る、看る)が、「診る」は「みる」の中でも、唯一「目」や「見」という字が使われていない漢字です。「言」という字がついているように、言葉を使って相手とコミュニケーションをとるという意味合いが強く、医者が患者の身体について調べたり質問したりして、結果を告げたりする際に使われます。ただこれですと「医者が患者に対して一方的に診察をし説明する」というニュアンスが強くなります。一時的な病気(風邪や食あたりなど)であればそれでも問題はありませんが、潰瘍性大腸炎やクローン病などの”IBD”といわれる病気は「診る」だけでは不十分です。残念ながら、現時点でIBDを完治させる方法はなく、したがって治療も一生涯にわたります(近い将来そうではなくなる可能性が高いと思いますが)。そのため、患者さんとの関係も、一方的ではないそれぞれの方にあったコミュニケーション法を探っていかなければいけません。その考えから、より広い意味を持つ「見る」という漢字の方がふさわしいと思い、このような演題にしたわけです(余談ですが、看護師さんの”看る”にはちゃんと”目”という漢字が入っているのは何か皮肉なものを感じますね🤔)。
・IBD治療の現状
IBDの原因は明らかではないものの、その病態解明の進歩には目を見張るものがあります。当然、病態にあった新規の治療薬が開発され、実際の治療に使用されています。
以下の表は、2000年代以降に発売された薬剤(いわゆる生物学的製剤)の一覧です。
発売年 | 潰瘍性大腸炎 | クローン病 |
2002年 | レミケード®(インフリキシマブ)抗TNF-α抗体 | |
2009年 | プログラフ®(タクロリムス)カルシニューリン阻害薬 | |
2010年 | レミケード®(インフリキシマブ)抗TNF-α抗体 | ヒュミラ®(アダリムマブ)抗TNF-α抗体 |
2013年 | ヒュミラ®(アダリムマブ)抗TNF-α抗体 | |
2017年 | シンポニー®(ゴリムマブ)抗TNF-α抗体 | ステラーラ®(ウステキヌマブ)抗IL12/23抗体 |
レミケード®(インフリキシマブ)抗TNF-α抗体 小児適応 | レミケード®(インフリキシマブ)抗TNF-α抗体 小児適応 | |
2018年 | ゼルヤンツ®(トファシチニブ)JAK阻害薬 | |
エンタイビオ®(ベドリズマブ)抗α4β7抗体 | ||
2019年 | エンタイビオ®(ベドリズマブ)抗α4β7抗体 | |
2020年 | ステラーラ®(ウステキヌマブ)抗IL12/23抗体 | |
2021年 | ヒュミラ®(アダリムマブ)抗TNF-α抗体 高用量と小児適応 | |
2022年 | カログラ®(カロテグラストメチル・AJM300) α4インテグリン阻害薬 | |
ジセレカ®錠(フィルゴチニブ)JAK阻害薬 | ||
リンヴォック®錠(ウパダシチニブ)JAK阻害薬 | スキリージ®皮下注(リサンキズマブ) 抗IL23p19抗体 | |
2023年 | オンボー®(ミリキズマブ) 抗IL23p19抗体 | |
エンタイビオ®(ベドリズマブ) 皮下注製剤追加 抗α4β7抗体 | リンヴォック®錠(ウパダシチニブ)JAK阻害薬 |
特にここ10年ほどの間の新規薬剤の増加は目覚ましく、患者さんにとっては福音となっています。ほぼすべての薬剤が外来で使用可能であり、もちろんクリニックでも使用することが出来ます。一昔前には使用できる薬剤も限られており、悪化があればすぐに入院が当たり前であったことを考えると、IBDはクリニックで見やすい疾患になってきていると言えます。
・クリニックでIBDをどこまで見るべきか
よく、「一般の消化器内科クリニックでIBDをどこまでみたら良いか分からない」という質問をお受けします。確かに、薬自体はクリニックでも使用できますので、理論的にはほとんどすべてをクリニックでみることは可能です。ただ、これらすべての薬剤を使えなければIBDを見てはいけないということではありません。個人的には、IBD診療における主治医(医療スタッフ)の役割は「IBDライフのナビゲーター」になる、ということだと思っています。スマホの地図アプリなどではまず目的地を入力し、交通状況などにあわせて、「現時点で最適のルート」を提示してくれますよね。途中で違う道にすすんでも、けなげに違うルートを教えてくれたり(異常に細い道とかをすすめてきて不安になることもありますが・・・)、目的地を変更してもすぐに新しいルートを検索してくれたり・・・。この、「目的地を一緒に決め」て、「どんな状況でもさりげなく最適なルートを提示する」ことが主治医の最大の役目ではないかと考えています。そう考えると、すべての治療をすることが重要ではなく、治療の見込みをお話しできたり、適切なタイミングで専門施設に紹介で来たりができるのであれば、「どこまでしなければIBDをみてはいけない」ということはないと思います。
・潰瘍性大腸炎(UC)の基本治療
とは言え、さすがに何も治療しないというのでは「見てる」とは言い難いですよね。やはり基本治療は押さえておきたいところです。UCの基本治療とは ①5ASA製剤(ペンタサ、アサコール、リアルダなど)をしっかり使う ②症状から今悪くなっている個所がどこかを推測して適切な薬剤を使用する(坐剤や注腸薬) ③再燃したときにはまずステロイドでの治療を検討する ④ステロイドでの治療がうまくいかない、いわゆる”難治例”には免疫調整剤の使用を検討する ということになります。これらでうまくいかないときに専門機関へ紹介するというのは一つの目安になるかもしれません。
・クローン病(CD)は経験があれば・・・でも慎重に!
UCとCDは同じ腸管の異常からくる疾患なので症状も似ていますが、実際に見ていると明らかに違う疾患です。最も大きな違いは「CDは経過するにつれ腸管の変形がみられて、狭窄(腸が狭くなること)や穿孔(腸に穴があくこと)などを来すなど、不可逆的な経過をたどることが多い」という点です。特に注意すべきは「狭窄」で、非常に経過が良好でお元気な方が突然の腹痛で病院を受診、腸閉塞や腸穿孔で緊急手術になるということも稀ではありません。また、腸が狭くなっているからと言って必ずしも腸閉塞を起こすかと言えばそうでもなく、主治医からすると「経過がよみにくい疾患」だと言えます。もちろんクリニックであるからこそ患者さんとじっくり向き合えるというメリットもありますので、経験のある先生方は、クローン病をみることができる病院とうまく付き合いながら積極的に見ていただければと思います。
以上、「クリニックでIBDを見る」ということに関して個人的な考えを述べさせていただきました。いずれにしても、受診しやすいクリニックという環境は患者さんにとっても非常にメリットが大きいと言えます。今回のお話が、先生方の今後のIBD診療の一助となれば幸いです。
(IBD Clinic Web Seminar 令和5年6月8日 インターコンチネンタルホテル大阪にて)