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おなかの病気のおはなし ~大腸憩室炎~

 

あんどう消化器内科IBDクリニックのブログです。

 

 今年も5月19日の「世界IBDデー」が近づいていきました。日本では2013年から「IBDを理解する日」として制定されており、毎年、「知らないことによる不都合や不利益」をなくすため、IBDを正しく認知・理解してもらうための取り組みが全国で行われます。今年も様々なイベントが行われるようですので、お時間のある方は気楽にご参加いただければと思います。

NPO法人 IBDネットワーク 「IBDを理解する日」イベント特設ページ」

 


 

話は変わりまして・・・

 

 いちおう「おなかブログ」と名前がついていますが、よく考えたら、最近ほとんどおなかの病気に関する記事がアップされていないことに気づきました。当院に通院されている方は、クリニック名にあるIBD(潰瘍性大腸炎やクローン病)はもちろん、過敏性腸症候群や便秘、逆流性食道炎や機能性ディスペプシア(これもそのうちブログで採りあげるつもりです)などが主な疾患ですが、意外に多い疾患に、「大腸憩室炎」というのがあります。今回のテーマは、目立たないけど意外と厄介な病気の代表(私見)、「大腸憩室炎」です。

 

そもそも「憩室」とは

まずはこちらのレントゲン写真をご覧ください。

 

 

 これは、「注腸検査」で認めた憩室のレントゲン写真です。「注腸検査」とは、おしりからバリウムを注入して、主に大腸の観察をする検査方法です。 CTなど他の画像検査の進歩や、以前よりも大腸カメラを受けやすくなったことから、近頃はこの検査自体をすることが減ってきていますが、憩室をイメージするには一番わかりやすいのではと思います。矢印が示すように、腸の壁から突き出た袋状の構造物が憩室です。憩室のことを英語で「diverticulum」と言いますが、これは英語の語源であるラテン語で「脇道」「回り道」「避難場所」といった意味合いを持つ、「dēverticulum」に由来します。日本語の「憩室」という言葉がいつから使われるようになったかははっきりしませんが、「途中でひと休みする」という意味を持つ「憩」という言葉を使うのは、なかなか洒落ていますね(しょっちゅう憩室炎で苦労されている方からしたら「一休み」どころではないと思いますが 😥 )

 

 

なぜ「憩室」が出来てしまうのか?

 世界で最も読まれている医学事典であるMSDマニュアルによると、「繊維質が少ない食事,赤身肉が多い食事,座位時間の長い生活習慣,肥満,喫煙,および非ステロイド系抗炎症薬(NSAID),アスピリン,アセトアミノフェン,コルチコステロイド,オピオイドの使用など,環境因子との関連が示唆されている。そのほかに考えられる危険因子として,遺伝因子や,結腸壁の構造および運動性の変化などがある。憩室は腸管内圧の上昇が原因である可能性があり,それにより腸管筋層の最も脆弱な部分(壁内血管に隣接する領域)から粘膜が突出する。」と書かれています。

 

 

          こんな感じ・・・?

 

 

 これでいくと、「野菜が少なくて肉ばかり食べている太った人」がなりやすいということになりますが、実際には(特に日本には)そんな人はそう多くはないと思います。実際診察をして診させていただいていると、結局のところ、「できやすい体質の人がなる」と言わざるを得ません。その他、なんらかのおなかの手術を受けたことがあったり、虫垂炎などの病気で腹膜炎を起こされた方にもよく見られます。

 

 

 

 

 ここからは2017年に日本消化管学会が発行した「大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン」より、憩室炎に関連した項目の中で、特に注目すべきステートメントを書き出します。興味のある方は直接ガイドラインをご覧ください(カッコ内は私自身の独り言です)

 

  • 本邦では大腸憩室保有者は増加傾向にある。
    (確かに、実感として増えています。食生活の変化でしょうか・・・)
  • 本邦において、大腸憩室保有者の累積出血率は0.2%/年である。大腸憩室炎は大腸憩室出血より3倍程度多い。
    (ということは、憩室がある方の0.6%ぐらいが憩室炎になるということですね。まぁ、そんなもんかな、という印象です。)
  • 米国において大腸憩室炎は増加後横ばいになっているが、本邦では不明である。
    (不明となっていますが、多分増えています。)
  • 喫煙が大腸憩室炎の合併症の増悪に関与している可能性は高い。肥満も関連が強いと考えられている。ほかにエビデンスの高い危険因子はない。
    (原因がはっきりしていないから、なおさらたちが悪い・・・)
  • 大腸憩室炎と大腸癌との関連性は不明である。
    (少なくとも、直接の関係は無いと思います。)
  • 大腸憩室炎の画像診断として、CTを実施することを推奨する。
    (大腸憩室炎だからすぐに大腸カメラが必要、という訳ではないという事ですね)
  • 膿瘍・穿孔を伴わない大腸憩室炎に抗菌薬は不要とする報告はあるが、日本人のデータはなく不明であり、現状では抗菌薬投与は許容される。
    (微妙な表現ですね・・・)
  • 膿瘍・穿孔を伴わない大腸憩室炎の再発率は13~47%である。
    (再発率が高いのも悩みどころ・・・)

  • 大腸憩室炎の再発を予防するエビデンスレベルの高い有効な方法はない。
    (はっきりとした予防法はありません・・・身も蓋もないですが 😥 )

 

  ガイドラインには書かれていませんが、経験的には、睡眠不足だったり仕事が立て込んで忙しかったりで身体に疲れがたまっているときや、季節の変わり目(まさに今です)で体調を崩しやすい時などに発病しやすい印象があります。その他、大腸憩室炎を発症した後には過敏性腸症候群が発症しやすという報告Clin Gastroenterol Hepatol. 2013;11:1614-9.もあり、患者さんのQOLを下げる要因になっています。

 

 

 「大腸憩室炎」は命に直接かかわることがほとんどなく、これといった治療法もないため、どちらかと言えば軽視されている病気です(少なくとも、大腸憩室炎の専門家にはお目にかかったことがないです)。結局のところ、①症状がなくてもしっかり検査を受けて自分に憩室があるかどうか把握しておく ②規則正しい食生活を心がけて体調を整える ③腹痛などの症状があれば早めに病院を受診する ということが一番の対処法になります。

 

 

 食生活の変化などにより増えてきているけど、決め手となる治療や予防法がない大腸憩室炎は、ある意味、セルフケアの大切さを教えてくれているのかもしれませんね 🙂 。

 

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