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「悩める管」、に悩む人

 

あんどう消化器内科IBDクリニックのブログです。

 

 巷には、病気をされた方々のいわゆる、「闘病記」というものがたくさんあり、潰瘍性大腸炎やクローン病に関しても多くの書籍が出版されています。ですが、私自身はそれらをほとんど読んだことがありませんでした。読まなかった理由は色々ありますが、内心、「読まなくても実際に聞いているからよく分かってるし…」という思いがあったのかもしれません。

 

 

 ある日、何気なくスマホを見ていた時に、一冊の本が目に留まりました。

 

『食べることと出すこと』 頭木 弘樹(著)(医学書院)

 

   表紙のイラストにも惹かれます

 

 

 タイトルもそうですが、本の帯に書かれた「人間は、食べて出すだけの一本の管。(たが、悩める管だ・・・・・。)」という言葉に妙にひかれました(いつも”悩める管”をどう治療するか悩んでいるので 🙁 )

 著者は大学3年の20歳のときに潰瘍性大腸炎を発症し、長い闘病生活のなかで大腸全摘術を受けられており、現在は「文学紹介者」(面白い肩書ですね)として活躍されている頭木 弘樹さんという方です。この本は、その間に経験された様々な出来事を、著者の優れた感性で、様々な文学、映画などからの引用を交えつつ、どこかユーモアを交えつつ語られています。書評はネット上にいろいろ書かれているのでそちらにお任せしますが(子供のころから読書感想文は苦手で…)この病気の方を多く見させてもらっておきながら、実際のところは何もわかっていなかったんだなと、正直軽くショックを受けました。

 

 

 直接読んでいただきたいので(IBDにかかわっている医療関係の方は特に❕❕)ネタバレになれそうな内容の記載はなるべく控えますが、いくつか印象に残った個所を挙げます。

 

『「食」でつながることを求める圧力は、難病というハードルさえ超えるのである。それほど強力なのだ。』

(第4章 食コミュニケーション 共食圧力)

『ひきこもることのおそろしさは、引きこもる理由がもしなくなったとしても、もはや容易には外に出ていけないということだ。原因があって、引きこもった場合、その原因をなくしてあげれば、その人はまた外に出られると思われがちだが、そうはいかない。』

(第6章 ひきこもること)

『長期間引きこもっていた人なら、たぶん、「そうそう」と共感してもらえると思うけど、久しぶりに外に出るといろんなことに驚く。まず、頭の上に空があることに驚く。(中略)そして、何より驚くのは、自分が歩くと、風景が後ろに動いていくことだ。』

(第6章 ひきこもること)

『長く病気をしている人間の、いちばんの願いは、病気が治ることだが、次の願いは、ほんのいっときでいいから、「病気の休み」が欲しいということではないだろうか。』

(第7章 病気はブラック企業)

『健康でもそうなのに、まして、病気になって弱っているときに、立派な人になるのを求められても困る。』

(第10章 ブラックボックスだから(心の問題にされる))

『つまり、そういう性格だから、その病気になったのではなく、その病気だから、そういう性格になったのである。』

(第10章 ブラックボックスだから(心の問題にされる))

 

 

 あとがきで、著者ご自身が「自分自身のことを書くほど難しいことはない」と述べられているように、この本が完成するまでに5年かかってしまったとのことです。しかし、この間に起こった、長期間にわたるコロナ禍で様々な価値観が変わっている現在であるからこそ、「病気とともに過ごす」というテーマがより普遍的となり、本書の内容がより実感をもって受け入れられるように思います。

 

色々な発見をさせてもらえた、貴重な体験でした。

 

いつか作者の頭木さんに直接お話を伺いたいですね

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